
不動産投資に限らず、投資判断の指標として広く使われるIRR。
Interbal Rate of Return の略であり、内部収益率とも呼ばれますが、このIRRを意識するかしないかで、あなたの物件選び、投資判断は大きく変わります。
ということで、今回はIRRについて見ていきましょう。
IRRは何を表しているのか?
IRRという言葉を初めて聞いた人は、まずは難しいことを考えずに、次のイメージで理解しましょう。
8%のIRRが見込まれる投資案件に5年間の投資をすることは、8%の複利の定期預金に5年間お金を預けた場合と、最終的には全く同じ利益になる。

すなわち、IRRが8%の投資物件からは、以下の表に表す定期預金と同じ収益を得られることができます。

ただし、IRR8%の不動産投資のキャッシュフロー(お金の動き)は、実際には以下の通りになります。

不動産投資のキャッシュフローは、初年度に初期投資である土地・建物購入金額を一括で支払う上に、期間中の修繕費や設備の追加投資等によって、毎年の収入もバラつきがあります。
とはいえ、結果としては、8%の複利の定期預金と同じ収益を生み出すのです。
ここで、最終的な増価額が異なっていること(定期預金46.93に対して、不動産投資40)に違和感を感じるかもしれません。
これは、定期預金においては、得られた収益をすべて再投資しているのに対し、不動産投資の場合は再投資を考慮していないからです。
つまり、理論的には下表の通り、不動産投資で得られた収益を、同じくIRR8%の投資案件に再投資し続ければ、最終的な増価額は8%複利の定期預金と一致します。

再投資含むキャッシュフロー合計額は146.93となり、増価額46.93が8%複利の定期預金の増価額と一致します。
IRR8%の不動産投資で再投資を考慮しない場合、最終的なキャッシュの増価額は6.96%の定期預金と一致し、MIRRも6.96%になるといえます。
NPVが0になる割引率
さて、IRRをより深く理解するためには、以下の定義を理解する必要があります。
IRRとは、NPVが0になる割引率のことである。
ここで新しく登場した「NPV」と「割引率」について、それぞれ簡単に見ていきましょう。
割引率
割引率とは、収益や投資対象などの「将来における価値」を、「現在における価値」に換算するために使われる値のことです。
そもそも、お金の「将来価値」と「現在価値」は異なります。
たとえば、もしあなたが100万円をもらえるとして、①1年後にもらえる場合と、②いますぐにもらえる場合の二つのケースを考えてみましょう。
②いますぐに100万円を受け取った場合、①の場合に受け取るまでの1年の間に、その100万円を使って投資をし、さらに収益を上げることができます。
つまり、②の場合は、時間を味方につけることによって、1年後には、(投資の利回りにもよりますが)すくなくとも100万円よりも大きなキャッシュフローを期待することができるのです。
すなわち、「明日のお金より、いまのお金の方が、価値がある」ということです。
では、1年後にもらえる100万円は、現在の価値に換算した場合、どれほどの価値になるのか。
それを計算するための値が、割引率になるのです。
例として、割引率を8%とした場合、1年後の100万円は、100 ÷(1+0.08)= 92 万円の価値となります。
ちなみに、割引率8%で5年後の100万円を計算すると、100 ÷(1+0.08)5 = 68万円となります。
よって、n年後に受け取る現金(C)の現在価値(PV)と、割引率(r%)の関係は、以下の式によって表されます。

実際には、将来の100万円は現在価値に換算してもあまり目減りしない、つまりもっと低い割引率を設定する方が妥当であるかもしれないですし、逆のパターンもあり得ます。
では、実際には割引率を何%と考えれば、1年後の100万円の将来価値を「真の」現在価値に換算することができるのでしょうか。
この問いについては、本記事の「IRRの目安」にて取り扱います。
NPV
NPVとはNet Present Value の略称であり、正味現在価値とも呼ばれます。
そしてその意味は、「将来のキャッシュフローの現在価値の合計額から当初の投資金額を差し引いた値」と定義されています。
具体的には、下の表の通り、投資で得られるキャッシュフローを割引率で換算した現在価値の合計から、初期投資のキャッシュ・アウト(イニシャル・コスト)を引いたものがNPVとなります。

ここでもう一度、「IRR = NPVが0になる割引率」について考えてみましょう。
NPVが0になる割引率を使って、上の表を書き換えると以下の通りになります。

この表において、割引率を12%と設定したことにより、NPVが0になっています。
この12%という割引率こそが、IRRというわけです。
IRRの計算方法
n年間で受け取る現金(C)の現在価値の合計から初期投資分C0を引いた値(C0は負の数値)、すなわちNPVが0になるとき、IRR(r%)は以下の式で表されます。
この式を解いてrの値を求めるのはとてもハードルが高いですが、実はエクセルにIRRを計算するための関数(IRR関数)があります。
ゆえに、エクセルを使えば誰でも簡単にIRRを求めることができます。
IRRの特徴とメリット・デメリット
数ある投資指標の中でも、IRRはどのような特徴を持っているのでしょうか。
不動産投資の判断指標として使う上でのメリットとデメリットをもとに解説していきます。
メリット
- 毎年のCFが大きく変動する場合でも収益率を判断できる。
- 投資期間の異なる商品との比較ができる。
まず一つ目のメリットについてですが、先述の通り、不動産投資のキャッシュフローは修繕費やCAPEX等で毎年大きく変動します。
そのため、定期預金や配当金で使われるような「利回り」を計算すると、その値も各年で大きく変動してしまいます。
不動産投資においても、NOI利回りや、NCF利回りといった指標がありますが、例えばある不動産物件の各年のNCF利回り(投資額に対するネット・キャッシュフローの割合)は、以下のようなイメージになります。

この通り、NCFの変動によってNCF利回りも変動し、物件の利回りをどう考えていいのか困ってしまいます。
しかしながら、IRRはCFの変動を含めた収益率を出すことができるのです。
二つ目のメリットは、各年のCFをすべて現在価値に換算するため、投資期間の異なる商品との比較も可能になるという点です。
時間の概念を組み込んでいるため、まさにいま投資すべき商品を判断することができるのです。
以上より、IRRは不動投資において、物件ごとの比較はもちろん、定期預金や債権の投資信託等、他の商品との収益率をも比較することのできる、とても優れた指標であるということが分かります。
デメリット
- 投資物件の規模が反映されない。
- IRRの解が複数存在したり、解が存在しない場合がある。
一つ目のデメリットは、投資物件の規模、大きさが反映されない点です。
IRRは、あくまでも「収益率」の指標であるため、たとえIRRの数値が高い物件に投資したとしても、得られるリターンの絶対値は比較できないため、将来得られるリターンが最大化されない可能性があります。
そのため、IRRだけでなく、NPV等、他の指標も併用し、総合的な判断が必要となります。
二つ目のデメリットは、キャッシュフローによってはIRRの解が複数存在したり、そもそも解が存在しない場合もあります。
例えば、以下のようなキャッシュフローを得られる物件があるとします。

割引率の変化によって、この物件のNPVがどのように変化するか、グラフで示すと以下の通りとなります。

グラフ上にNPV=0となる点が二つあり、IRRが二つ存在することを表しています。
このとおり正しい投資判断をするには、IRRに以上のような弱点があることを理解しておくことも必要です。
IRRの目安
NPVによる投資判断においては、その投資におけるリスク等を勘案して、割引率の設定をしなければなりません。
一方で、IRRの算出過程においては割引率の設定をする必要はありません。
とはいえ、投資判断時に割引率の妥当性を考慮する必要がないとはいえないのです。
なぜならIRRが8%と出た場合、その投資はアリなのかナシなのか、基準となる数値がないと投資判断ができないからです。
それでは、不動産投資におけるIRRの目安はどれくらいなのでしょうか。
結論から言うと、税引前IRR8%前後でミドルリターン、15%を越えるとハイリターンといわれています。
ただし、IRRは市場環境や物件ごとに異なるため、一概にどれくらいの数値であるかは言い難いのです。
そもそも割引率は、投資物件のリスクと正の相関関係にあります。
リスクが高ければ高いほど、割引率は高くなり、その逆もまた然りです。
たとえば都心の物件に比べて、地方の物件の方が不動産価格が下落するリスクが高いため、割引率も高くなります。
将来の不動産価値の下落の可能性が高ければ、将来CFの現在価値が低くなるのも当然だからです。
それゆえ、周辺の物件や類似物件、そして市場環境をつぶさにチェックして投資判断をすることが大事なのです。
まとめ
IRRは、不動産投資の収益率を判断するにあたって、とても優れた指標となります。
いかに効率よく投資するかは、IRRをしっかりとチェックして物件毎の収益率を把握することはとても重要なことなのです。
とはいえ、IRRにも弱点はあり、その数値を過信してはいけません。
他にも、営業利益率やNOI利回り、NPV、回収年数といった様々な指標を使って、物件の収益力とその特徴を総合的に判断する必要があります。
IRRやその他投資指標は、たしかに便利なツールですが、その数字をどう読むかで、投資家の腕が試されるのです。