
個人の不動産投資家において、不動産所得にかかる税金は所得税と住民税だけではありません。
不動産賃貸の規模が一定の基準を超える場合は、さらに個人事業税も課せられるのです。
個人事業税自体は所得額の5%とそれほど大きな金額にはなりませんが、所得税(+復興特別所得税)、住民税と合わせると最大で62.1%にもなります。

すなわち不動産投資を行う上では、税金の正しい知識と節税の方法を理解しておかなければならないのです。
本記事では、個人事業税の基礎知識について説明します。
個人事業税とは?
個人事業税は、個人で事業を行なっている者に課税される税金のことです。
不動産投資についても、一定の規模を超えている場合、それは事業(不動産賃貸業)とみなされて、事業税が課税されます。
ちなみに、個人事業税の目的は、事業を行う上で受ける行政サービスの費用の一部を、個人の事業主に負担してもらうこととされています。
それゆえに、事業税は国税ではなく地方税(地方に納める税金)です。
法人の場合は、個人事業税ではなく、「法人事業税」という税金がかかってきます。
個人事業税が課税される条件

不動産賃貸業とみなされ、個人事業税が課税される条件は、次の表の通りです。
建物 | 住宅 | 一戸建て | 棟数10以上 |
一戸建て以外 | 室数10以上 | ||
住宅以外 | 独立家屋 | 棟数5以上 | |
独立家屋以外 | 室数10以上 | ||
土地 | 住宅用 | 契約10件以上 or 貸付面積2,000㎡以上 | |
住宅用以外 | 契約10件以上 | ||
複数の不動産 | 総合計10以上 or 上記のいずれかを満たす場合 | ||
その他 | 建物の延床面積が850㎡以上、 かつ賃料収入が年1,000万円を超える場合 |
||
駐車場 | 建築物または機械式 | 駐車可能台数1台以上 | |
上記以外 | 駐車可能台数10台以上 |
ポイントは、「住宅であれば戸建10棟以上」、「区分所有なら10室以上」、「土地なら10件以上または2,000平方メートル以上」である点です。
厳密には、青色申告における「不動産所得の事業的規模」の要件(5棟10室他)と異なりますが、目安としては同程度であると考えましょう。
個人事業税は必要経費?
個人事業税は必要経費に含まれます。
所得税や住民税と異なり、必要経費として、家賃収入を差し引き、所得額とそれに応じて税額を低く抑えることができるのです。

他にも必要経費として認められている税金は、固定資産税や都市計画税、印紙税などがあります。
必要経費は節税効果があるので、もれなく忘れずに計算しましょう。
個人事業税の計算
個人事業税は次の式で算出できます。
基本的には、所得税や住民税と同じように、所得額を計算して、税率をかければ求まります。
ただし、事業税を算出するときには、所得額に対して事業税独自の「事業主控除」等を差し引くことができます。
以下で個人事業税の計算方法について詳しく見ていきましょう。
所得額から差し引くことのできる項目
事業税の算出にあたって、まずはじめに収入から必要経費を差し引きます。
そして、必要経費だけでなく、さらに以下の3つの項目についても、収入から差し引くことができます。
1.事業主控除290万円
事業税において最も大きな控除となるのが、「事業主控除」です。
事業主控除は、一律で290万円を収入から差し引くことができます。


事業を行った期間が1年未満の場合は、収入から290万円全額を差し引くことはできません。
事業主控除は1年間で290万円と定められているため、月割で控除額が適用されます。
2.繰越控除
繰越控除は次の3つに分かれます。
- 損失の繰越控除
- 被災事業用資産の損失の繰越控除
- 譲渡損失の控除と繰越控除
青色申告者で、事業の所得が赤字となったとき、翌年以降3年間、損失額を繰り越して控除することができます。
白色申告者で、震災、風水害、火災などによって損失が発生したとき、翌年以降3年間、損失額を繰り越して控除することができます。
機械、装置、車両などの事業用資産(土地、家屋は除く)を譲渡したために損失が発生したとき、損失額を控除することができます。
さらに、青色申告者は、翌年以降3年間、損失額を繰り越して控除することができます。
3.専従者給与
事業主と生計を一にする親族の方が専らその事業に従事するときは、一定額を必要経費として控除できます。
青色申告者 | その給与支払額(所得税の事業専従者給与額) |
白色申告者 | 配偶者の場合は86万円、その他の場合は1人50万円が限度 |
しかし、個人事業税の課税対象となる所得額については、青色申告特別控除を差し引くことができません!
所得税・住民税と個人事業税の「所得額」は、同じ名称でありながら、控除に対しての考え方が異なるため注意しましょう。
税率
個人事業税の税率は、事業内容によって異なります。
不動産賃貸業の税率は5%です。
各事業の税率は次の通りです。
- 税率5%の事業(第1種事業)
- 税率4%の事業(第2種事業)
- 税率5%の事業(第3種事業)
- 税率3%の事業(第3種事業のうち2業種のみ)
「不動産貸付業」、「物品販売業」、「運送取扱業」、「料理店業」、「遊覧所業」、「保険業」、「船舶ていけい場業」、「飲食店業」、「商品取引業」、「金銭貸付業」、「倉庫業」、「周旋業」、「不動産売買業」、「物品貸付業」、「駐車場業」、「代理業」、「広告業」、「請負業」、「仲立業」、「興信所業」、「製造業」、「印刷業」、「問屋業」、「案内業」、「電気供給業」、「出版業」、「両替業」、「冠婚葬祭業」、「土石採取業」、「写真業」、「公衆浴場業(むし風呂等)」、「電気通信事業」、「席貸業」、「演劇興行業」、「運送業」、「旅館業」、「遊技場業」
「畜産業」、「水産業」、「薪炭製造業」
「医業」、「公証人業」、「設計監督者業」、「公衆浴場業(銭湯)」、「歯科医業」、「弁理士業」、「不動産鑑定業」、「歯科衛生士業」、「薬剤師業」、「税理士業」、「デザイン業」、「歯科技工士業」、「獣医業」、「公認会計士業」、「諸芸師匠業」、「測量士業」、「弁護士業」、「計理士業」、「理容業」、「土地家屋調査士業」、「司法書士業」、「社会保険労務士業」、「美容業」、「海事代理士業」、「行政書士業」、「コンサルタント業」、「クリーニング業」、「印刷製版業」
「あんま・マッサージまたは指圧・はり・きゅう・柔道整復・その他の医業に類する事業」、「装蹄師業」
納付方法
個人事業税の納付方法は、普通徴収となります。
普通徴収とは、納税義務者のもとに届けられた納税通知書に基づいて納付をする方法のことです。
個人事業税の場合は、毎年8月頃に納税通知書が届きます。
また、個人事業税は通常、8月と11月の二回に分けて税金を納付します。
事業税は地方税(都道府県税)ですが、都道府県に所得額の申告をする必要はありません。
というのも、事業税を納めなければならない個人事業主は、基本的に所得税の確定申告を税務署に提出しているはずです。
確定申告の情報は、税務署から各都道府県税事務所に伝えられ、事業税が計算されます。
そのため、わざわざ都道府県税事務所に申告しなくても、向こうから納税通知書が届くのです。
ただし、確定申告をしていない場合、もしくは個人住民税の申告書を提出していない場合は、毎年3月15日までに、都道府県税事務所に事業税の申告をしなければばりません。
まとめ
- 建物10棟以上、貸室10室以上の規模の不動産賃貸業が課税対象
- 所得額から「事業主控除:260万円」が差し引ける
- 「青色申告特別控除」は差し引けない
- 税率は5%
- 納付期限は8月と11月の年二回
所得税・住民と同じく、所得額に応じて課税される個人事業税ですが、所得額から差し引くことのできる控除額が異なりますので、その違いをしっかりと把握しておきましょう。
