
不動産投資において、不動産を賃貸し、家賃収入により利益を上げた場合、その額(所得額)を計算して確定申告をする必要があります。
そして、その所得額に応じて所得税と住民税が課せられます。
所得税と住民税は、不動産所得に限った話ではなく、あらゆる個人の所得(個人の収入から必要経費を引いたもの)に課せれらますが、ここでは不動産賃貸に関係するトピックスに絞って説明します。
ちなみにこれらは個人で不動産投資を行なった場合に課せられる税金であり、法人の場合は、所得税と住民税ではなく法人税と法人住民税が課せられます。
個人の場合 | 所得税、住民税、(+事業税、消費税) |
法人の場合 | 法人税、法人住民税、(+法人事業税、消費税) |

また、厳密に言えば、不動産所得にかかる税金として消費税と事業税もあげられますが、本記事では省略します。
不動産所得にかかる所得税と住民税とは?
所得税と住民税は、不動産賃貸において毎年の家賃収入から必要経費を引いた金額(不動産所得)に応じて課税されます。
すなわち、所得税と住民税は、毎年課税されるものであり、不動産投資(不動産賃貸業)におけるランニングコストの一つとなります。
所得税 | 国税 |
確定申告により納税(申告納税) | |
住民税 | 地方税(都道府県民税+市町村税) |
納付書に基づいて納税(普通徴収) |
所得税は国税で、住民税は地方税となり、それぞれ納税方法も異なります。
ただしこれらは、課税所得(不動産所得)に応じて税額が決定する点で共通しています。
所得税・住民税の課税方法は「総合課税」です。
個人の収入が不動産所得だけでなく、例えばサラリーマンとして給料をもらっている場合などには、それらの所得と合算して「課税の対象となる所得」が決まります。
このような他の所得と合算して税額を計算する仕組みを「総合課税」と言います。
しかしながら、まずは基本として不動産所得のみに絞った場合の、所得額と税額の算出方法を理解しましょう。
不動産所得と税金の計算
さて、所得税と住民税の税額の計算について見ていきましょう。
不動産所得は、先述のとおり毎年の家賃収入から必要経費を引いた金額のことです。
不動産所得 = 家賃収入 - 必要経費
家賃収入とは?
家賃収入とは、文字通り不動産を賃貸して得られる収入のことです。
ちなみに、家賃収入以外にも、共益費や、対象物件の土地や建物屋上等に設置された看板による広告収入、敷地内にある自販機から得られる収入も、不動産所得に含めます。
とはいえ、不動産における収入の大部分が家賃収入となっています。
必要経費とは?

主な必要経費は以下の通りです。
- 管理費
- 修繕費
- 修繕積立金
- 公租公課
- 損害保険料
- 減価償却費
- 支払利息
賃貸仲介会社への仲介手数料や建物・設備管理業者への手数料
建物の補修や修理にかかる費用(資本的支出は含みません)
建物管理会社に対して支払う修繕積立金
固定資産税や都市計画税、印紙代、事業税
不動産にかけた火災保険や地震保険の保険料
建物の取得金額を費用化したもの
不動産取得のための借入金がある場合の、利息分の返済額(元本分の返済額は含まれない)
この通り、シンプルな家賃収入と違って、必要経費は項目が多いです。
当然ですが、不動産賃貸に必要であると認められた経費以外は、家賃収入を差し引き不動産所得を減らすことができません。
上手に経費処理し、税金を低く抑えることは不動産投資において重要なことですので、何が必要経費とされるのか、しっかりと把握しておきましょう。

各税金の算出方法
家賃収入と必要経費が分かれば、不動産所得を導き出すことができます。
導き出した不動産所得から、所得税と住民税の算出式に当てはめて税額を求めましょう。
所得税と住民税の具体的な計算方法は次の通りです。
以下にそれぞれの詳細について見ていきます。
所得税の計算
所得税は次の計算式で求められます。
税率と控除額は下表の通りです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万年以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
控除額を差し引く意味
控除額は、税額の計算を簡単にするためのものです。
所得税の税率は、所得金額の各段階に応じて組み合わされます。
例えば300万円の所得金額の場合、一律で10%の税率が適用されるのではなく、195万円以下は5%、残りの105万円は10%となります。
これを計算すると、195万円×5% + 105万円×10% = 97,500円 + 105,000円 = 202,500円となります。
一方で、300万円に一律で10%の税率を掛けて、控除額を引いても、全く同じ202,500円が求められます。
このように、所得金額が大きいほど、段階毎に分けて計算するのに手間がかかってしまうため、一律で税率を掛けた後に控除額を引いて簡易的に算出することができるようになっているのです。
復興特別所得税の計算
また、平成25年から平成49年までの間は、所得税とあわせて「復興特別所得税」という税金が徴収されます。
復興特別所得税の税率は一律で2.1%となっています。
課税対象 | 税率 |
---|---|
不動産所得 | 2.1% |
ゆえに、不動産所得の2.1%が復興特別所得税の税額となります。
住民税の計算
住民税の税額は、「所得割額」と「均等割額」の合計となります。
1.所得割額
所得割額は、所得額に税率を掛けた金額となります。
税率は下表の通りです。
住民税 所得割額 |
都道府県民税 | 4% |
市町村税 | 6% |
すなわち、都道府県民税と市町村税を合算して、所得額の10%が所得割額になるのです。
2.均等割額
均等割額は、所得額に関わらず、一律で定額5,000円(都道府県民税+市町村民税)が課税されます。
住民税 均等割額 |
都道府県民税 | 1,500円 |
市町村税 | 3,500円 |
均等割額は、地方自治体の防災対策に必要な財源を確保するため、平成26年度から平成35年度まで都道府県民税・市町村民税それぞれ500円が加算されています。
上の表の数字は、500円ずつ加算した金額になっています。
不動産所得の申告と納税
不動産所得を計算したら、税務署に所得額を申告し、納税する必要があります。
以下で、確定申告の種類と、納税の方法について説明します。
青色申告制度で最大65万円の控除
申告の方法は「白色申告」と「青色申告」の2種類あり、実は青色申告制度を使えば、所得額が最大65万円控除されるなど、節税メリットが受けられます。

青色申告制度を使う条件
青色申告制度を使う条件は次の通りです。
- 不動産所得を得ている
- 事前に届出書を提出
- 帳簿付けを行う
1つ目の条件について、例えばサラリーマンで給与所得のみを得ている場合は青色申告制度を使えません。
しかし、副業で不動産所得を得ているサラリーマンは青色申告できます。
また、3つ目の条件については、平成26年から白色申告制度においても帳簿付けが義務化されました。
そのため、青色と白色の手続きの違いは「事前に届出書を出すか出さないか」の違いでしかありません。

青色申告5つの節税特典
青色申告制度を活用して得られる節税特典のうち、効果が大きいのは次の5つです。
- 所得額から特別控除額(10万円or65万円)を差し引ける
- 事業を手伝う家族への給料が全額経費となる
- 赤字を3年間繰り越しできる
- 30万円未満の固定資産が全額経費となる
- 自宅などの経費が事業の経費となる
不動産所得から特別控除として、一定の金額を控除できます。控除額は10万円と65万円の2種類に分かれます。
65万円控除と10万円控除の違い
65万円の控除が受けられるのは次の2つの条件をクリアしている場合です。
1.複式簿記による帳簿付け
2.「事業的規模」の不動産所得
1つ目の複式簿記は、単式簿記よりも複雑ですが、会計ソフトを使えば問題なく青色申告の要件を満たすことができます。
また、2つ目の条件については、目安として、10室以上の貸室、または5棟以上の独立家屋を賃貸している場合、「事業的規模」の不動産所得と判断されます。
「事業的規模」の不動産所得については、家族(生計を一にする親族)に対する給与支払いが、必要経費として算入できます。
不動産所得が赤字の場合、他の所得を赤字の分だけ差し引くことができます(損益通算)。
他の所得とは、給与所得や事業所得等のことです。
損益通算しても赤字分が控除しきれないとき、青色申告の場合、翌年以降3年の間、各年の所得と相殺することができるのです。
固定資産の取得に使った経費は10万円以上になると一括計上できなくなります(減価償却の対象となります)。
しかし青色申告・複式簿記においては、1年間で300万円まで、30万円未満のものを経費処理できるのです。
自宅兼事務所の家賃や電気代などが、事業の必要経費として認められます。
ただし、経費として認められるのは全額ではなく、あくまで事業として必要であった割合のみです。
例えば、自宅兼事務所の家賃の場合、事務所スペースの面積を全体の延床面積で割って、家賃を按分して経費を計算します。
もちろん特別控除だけでなく、家族への給与払いや自宅の家賃が必要経費になるといった特典全てが、所得税、住民税のどちらにも適用されるのです。
納税方法
納税方法は所得税と住民税によって異なります。
所得税は申告納税、住民税は普通徴収です。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
所得税の納税方法
所得税は、確定申告した所得額・税額に基づいて、自ら納付する必要があります。
次に紹介する住民税とは違って、納付書が届いたりするわけではなく、あくまで自ら納付しなければならないため、注意が必要です。
所得税の納付期限は、確定申告の提出期限と同じ3月15日となります。
また、納付方法は次の3つがあります。
- 現金で納付する
- 銀行講座から振替納税する
- インターネットを使って電子納税する
振替納税の場合、銀行口座から引き落としされる日は、4月20日となるため、通常の納付期限よりも支払いを遅らすことができます。
住民税の納税方法
不動産所得の住民税は、各市町村から送られる納税通知書に基づいて納付することになります(これを普通徴収と言います)。
ちなみに不動産所得だけでなく、給与所得以外の所得は全て普通徴収になります。
基本的に住民税は一年の間に4期分割で支払います。
支払いの細かいタイミングは各市町村によって異なりますので納税通知書の書面等で確認しましょう。
まとめ
不動産所得にかかる税金は、住民税と所得税の2つがあげられます。
住民税については、復興特別所得税も追加で課税されますので注意しましょう。
いずれも、各年の不動産所得に応じて税額が決定されますが、節税のポイントとして大きいのは、次の2つでしょう。
- 必要経費となるものを見極め、しっかりと処理する
- 青色申告制度を使う
不動産所得は家賃収入から必要経費を差し引いた者なので、必要経費をしっかりと処理すれば、その分だけ税額も低く抑えられます。
また、確定申告について、事前に届出を出すだけで青色申告となり、様々な節税のメリットを受けることができます。
65万円控除が受けられなくても、10万円控除の青色申告でも十分効果は得られますので、何はともあれ青色申告の届出書を提出しましょう。